テムズ川のほとりから

[KOK 0148]

10 Apr 2001


住むところを決めきれないままイギリスにきた。イギリスはただでさえ家賃も高いのに今年は円安でさらに厳しい。そもそもオックスフォードで家を探すのはかなり大変だ。需要に対して供給が少ない。家族連れで一年以内の滞在となるとなおさらだ。インターネットや電話をつかって物件を探したのだが、結局、最初の何日間かホテル住まいをしながら不動産屋をあたることになった。去年さんざん歩き回ったので土地勘は十分だ。

条件に合う物件は少なかったが、駅の近くの家を借りられることになった。すぐ裏にテムズ川が流れており、家の裏庭から川沿いの遊歩道にもでられる。目の前で優雅に白鳥が泳いでいる。ベッドルームが二つと居間が一つ、それにキッチンと食堂、バスルームがついた2階建て。子供たちの学校へも遊歩道を使って10分ほど。まあ悪くない。

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手前から3軒目が新居です

ただし、昨年、このあたりは洪水になったらしい。近くに土嚢が積んである。これから春にかけて水は引いていくのだろうが、今でもテムズ川がぎりぎりまで増水しておりちょっと怖い。

イギリスの川の管理の仕方は日本とは対照的だ。日本の川は、上流に巨大なダムを造り流水量を制限した上で、流れを直線にしてまわりをコンクリートで護岸し、できるだけ速やかに水を海まで流しきってしまうという方針で管理されている。新幹線で東京に行くときに天竜川や大井川をみるとよくわかるのだが、大きな岩がごろごろと転がっている河川敷が続いているイメージは実は本来の川の姿ではない。江戸時代の「越すに越されぬ大井川」の雰囲気を今に伝えている川は、満々と水をたたえた四万十川や釧路川くらいだろうか(以前に見た釜山空港近郊の川は美しかったな。なに川だろ)。

イギリスの場合は、日本のように高い山もなく台風のような突発的な大雨も少ないため、川の様相がずいぶん違う。川は緩やかに蛇行を繰り返し、河岸にはメドウ(meadow)と呼ばれる氾濫原が点在する。雨の多い季節はここに水を引き込み、水が少なくなると残された肥沃な土地で牛などを放牧する。

しかし河川管理の方法としてもっとも目につくのが、いたる所に造られた水門(lock)である。現在でもカヌーやボートなどの往来がおおいテムズ川では、こうしたロックによって水位が調節されている。ロックには二つのゲートがあり、船が入ると後ろのゲートを閉じ前のゲートをあける。下流から来た船はここで上に持ち上げられ、上流から来た船はここで降下する。オックスフォードあたりではおよそ3キロメートルごとにロックがある。

こうした設備のおかげで川の高低差がほとんどない。つまり階段状に船は川を往来できることになる。ふつうなら下流から上流に向かってカヌーをこぐのは至難の業であるが、こうした水門があれば湖をいくようなものである。しかし、よいことばかりではない。せき止められてよどんだ水には植物プランクトンが繁茂し川の水は非常に汚れている。常に高い水位で川を管理しているので、突発的な大雨には弱い。さらにロックを管理するには、人の手がかかる。

さて、そんなテムズ川のほとりの家である。散歩するにはもってこいのロケーション。お気に入りの草原のパブまで川沿いに20分。引っ越してきたあとで、裏庭の植木の中でマガモが巣を作っているのを発見した。留守中の家の庭で、こっそり卵を生んで暖めていたらしい。日本なら即座にとって食うところであるが、もう少し暖かくなって雛が生まれるまで待つことにしよう。

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Takekawa Daisuke