[KOK 0233] こくら日記のトップページにとぶ 28 Jul 2003

焼跡願望

 

東京へ出張するために博多駅まで来てみると、あたりはすっかり泥の海になっており、駅は孤島と化し、その機能はほとんど麻痺していた。昨晩から降り続いていた雨で近くの川が氾濫したためらしい。

沖積平野につくられた都市が洪水に弱いのは当然といえば当然である。河川沿いに広がる平野も埋め立てられた遠浅の海も、みな洪水がつくったものなのだ。だから、洪水を川のせいにして、100年に1度の災害を起こさないためにダムを造ろうという発想は、本末転倒というか、地質学的な感覚が欠落しているのだと思う。でも、それは仕方のないことかもしれない、せいぜい100年しか生きることのできない人間にとって、地球の時間はあまりにも長い。

石黒耀のデビュー小説「死都日本」を読んだ。途中でやめられなくなって一気に読んだ。火山の噴火を題材にした小説だ。書評によると専門家が見ても非常に正確な知識に基づいて書かれているという。「地球にやさしく」なんて言ってる我々が、地球の気持ちなんてちっともわかっていないのだという事を嫌というほど思い知らされるだろう。ぜひ読むべきである。おすすめである。とくに九州の人には必読書といえよう。

死都日本

時々刻々と変化する噴火の実況と重奏的に語られるのは、日本の政治に対する執拗なまでの皮肉だ。腐敗しきったシステムを一掃するためには、もう一度焼け跡から国造りをやり直すべきである、そんなメッセージがこの本から読み取れる。

現実を見ても、たしかに真綿で首を絞めるような不況と管理化の中で、人々の心のどこかにそんな破壊への衝動が潜んでいるのかもしれないと感じる。もう一度、戦争への道に突き進んで、国土を火の海にして、すべてをさっぱりさせて、やり直したい。そういう焼跡願望が、このごろの新しい戦争の始まりをひそかに支持しているのかもしれない。


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