アタックの秋1

[KOK 0120]

18 Nov 1999


ソロモンから日本に研修に来ているチャールズ=ワキオ氏を小倉に招待した。ワキオ氏は、ファナレイ村でぼくの魚採りの師匠であるオウオウ氏の娘婿である。ソロモンでは輸出向けの魚加工の工場で働いており、半年間の技術研修員に選ばれて6月に来日した。

小倉訪問では、いきなり羽田から福岡空港まで飛行機でとび、さらに空港から地下鉄に乗り、地下街を通り抜け、そのままビルの3階からバスに乗り、高速道路を走った。ワキオ氏にとって見るもの聞くもの新しいことばかりだ。

ソロモンは小さな国である。人口はわずか30万人。首都のホニアラも1キロメートルほどのメインストリートにそって店が何軒かならんでいるだけで、日本の小さな田舎町ほどの規模もない。ワキオ氏にとって人の数、家の数、車の数、あらゆるものが想像の域を超える。

ソロモンからやってきたワキオ氏にとって、日本のどういう場所が一番楽しめるのだろう。彼が来るまでずっとそれを考えていたが、なかなか良いアイデアが浮かばなかった。

翌日、ワキオ氏とともに門司と下関に遊びに行く。海底を渡る人道トンネルにはぜひ連れて行きたかった。しかし残念ながら工事中。前回の「こくら日記」で紹介したトーナス=カボチャラダムスの展覧会をみた。

展覧会ではワキオ氏の通訳をしながら絵を見てまわった。絵の中で彼が注目している部分が面白かった。ワキオ氏は、絵の中で描かれている籠の編み方や家の柱の組み方、屋根の作り方など、ある種のディテールに特に興味を持っていた。そのあと藤原新也が門司で撮影した写真展を見に行った。そこでも彼はモデルの女の子たちには見向きもせず、その背景にうつっている農作物に関心があるようだった。

里芋の葉っぱを見つけては「あっ、タロイモがある」。山芋のツルを見つけては「ヤムイモもある」「コーン、ビーン、クマラおお日本にはハイビスカスも咲くのか」。展覧会の意図もあったもんじゃない、おそらく作者の藤原新也が思いもよらない変なところばかり感心する。

しかし、ソロモンで生活していたときのことを思うと、彼の驚きはなんとなくわかるような気がした。ソロモン人にとってまるでSFの世界のような日本に、見慣れた風景を発見したときの喜び。もしぼくが宇宙船でどこかの星に連れて行かれて、そこにラーメンやコロッケがあったらたぶん何よりうれしいだろう。

その日の夜はみなを呼んで、家でココナツミルクとイモでパーティをした。そして3日目。貴重な滞在の時間を街でついやすのはやめた。「ナッツをとりに行こう!」

子供たちも連れて足立山の中腹にシイの実とりに出かけた。「おお!日本にもブッシュがあるのか!」もっぱら関東平野で研修をしていたワキオ氏はまず森に驚いた。「しかもナッツはワイルドワンか!」食べられる野生の実に興奮する。「美しい林だ、家を造るときの柱にもってこいだ」植林の杉の木をみて一本持ち帰りたいという。

われわれはシイの実を拾いを開始した。さすがは生まれついてのアタッカーである、シイの木を教えると彼は即座にその特徴を覚え、熱心に集め始める。子供たちも夢中である。

うむうむ大正解だ。そんな秋の風景に、ぼくは、ちょっとうれしくなったのである。

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Takekawa Daisuke