ドブロク祭り

[KOK 0083]

20 Apr 1998


4月11日に前田俊彦氏を偲ぶ「ドブロク祭り」にいき、どぶろくを飲んできました。

ドブロク祭り実行委員会のみなさんが準備したさまざまな出し物や屋台は、にぎやかな祭りを演出し、子ども連れの家族が楽しげに晴天の週末を楽しんでおりました。

一方、瓢鰻亭忌を主催していた「瓢鰻亭・前田俊彦を偲ぶ会」は、「瓢たん鰻の会」と名称をあらため「フォーラム前田俊彦の世界」という企画をおこなっておりました。

1時からはじまったこちらのフォーラムの方は、少し硬派な、しかしなかなかに面白そうなメンバーが集まっておりました。若い人から歳をとった人まで、幅広い年齢層の人たちがこのフォーラムに参加しておりましたが、前田さんの書き残したものを巡っての議論は、初めて顔を出した私にも十分に楽しいものでした。

ひさしぶりに地に足のついた左翼(という表現が的確かどうか疑問ですが)の真髄をみたような思いがしました。京都にいたときは、60年70年代を引きずりながら現代を語るすてきな人たちとであう機会も、少しはあったのですが、そして街全体がそんな雰囲気に満ちていたのですが、北九州にきてからはサッパリでした。

北九州で元気なのは、党派的でブルトーザーのようなおっさんと、やさしいサヨク崩れと、市民派グループのおばさまたちばかりでした。それだけに、「瓢たん鰻の会」の風情は懐かしいような新鮮な気持ちでした。九州の片田舎で、天下国家を論じ、教育を憂い、酒を汲み交わす、在野の人々。そんなすてきな寄り合いでした。

さて、前回のお誘いに対して、わたしのドブロク友達でアフリカ研究者の「レンヤさん」から以下のようなお手紙をいただきました。

【レンヤさん】
花登こばこ原作・水島新司画の「銭っ子」っていう漫画知ってますか。私の子供の頃の愛読書のひとつでしたが、そこで、主人公のケン(金持ちの息子だったが、両親が事故死して孤児になり、妹と自殺しようとしたが、神戸のガタロ船の船長に救われた)が、ガタロ船長に何か恩返しをしようとして、清酒を買っていったところ、船長が「わしはどぶろくしかのまんのじゃ、これは金持ちの飲む酒じゃ、あーあ、もったいない・・。」といって酒をこぼしてしまう場面があります。子供心に、どぶろくというのは、あの妙な臭気を発する透き通った酒よりも、きっともっと濃厚な風味があって、おいしい飲み物なんだろうなあ、と想像したものです。どぶろくという言葉は、それで初めて知りました。

「どぶろくをつくろう」は、画期的な本でしたよね。思えば、私が高校の頃は、純米酒なんか探すのは本当に難しかった。日本酒なんか(私の世代では)誰も飲まなかったし、おじんの飲む酒、と皆思ってました。藤沢で酒屋を何軒かまわって、ようやくひとつ「原料 米・米麹」という酒を見つけて(たしか招徳の酒だったような)買って帰り、飲んで見たところ、なんだかのどのところで米の味がする、これは結構いけるぞ、と感動したのをはっきり覚えています。おいしい酒を飲むたび、あの本のなかの「村に、わきたつ哄笑と空想を!」というフレーズを、頭に思い浮かべます。

あの本で玉城哲が書いているように、酒には、(異種)共同体が政治・経済的均衡を保つための、儀礼的な機能がかなり普遍的にあると思います。アフリカの焼畑民社会(少なくとも私の調査地)では、酒を飲むことは、みんなで食べること、コーヒーを飲むこととともに、コミュニケーションの要です(でした、というべきか?)。酒がどこかで用意されれば、何はともあれ、万難を排してはせ参じる。寡婦は、十数人分のたっぷりのどぶろくを用意しさえすれば、数か月分の食い扶持を確保するくらいの畑をつくることができる。それで、離婚が多発する割には、悲惨な家計があまりみられません。だから、この十数年で、若い人がどぶろくの習慣を(キリスト教化によって)やめてしまったのは、日本の戦後に匹敵するくらいの、社会経済的大変動になるのかもしれません(今後もしばらく禁酒の習慣が続けば、の話ですが)。年寄りが宴会をやるたびに(若い人の非難を覚悟の上で)でかけていっては、どぶろくをじゅるじゅるすすって、 ばあさんの踊りの巧みさに惚れつつ、「村に、わきたつ哄笑と空想を!」というフレーズを、頭に思い浮かべます。そう、別便で書こうと思ってますが、私たちの「コミュニケーション技術の欠落」は、こんなところにもある。

どぶろくという言葉から、いろんなことを思い出しました。

すてきな文章をありがとうございます。こういう話を聞くにつけ、この「こくら日記」も、個人誌的なイメージから、意見交換の場としてのメイリングリスト的なものにしてみようかな、なんていう欲望がでてきます。

とりあえず、おもしろいメイルはできる限り「こくら日記」の場でフィードバックし、双方向的なコミュニケーションを楽しめるようにしたいと思います。次回はたくさんの反響をいただいた「やさしさと同調性」投稿特集です。

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Takekawa Daisuke