15 Feb 1997
■昼の豆まきは、テレビや新聞に取り上げられる年中行事としてよく知られているが、夜の豆まきはちょっと秘密の豆まきであった。
■よる7時15分、 鬼やら福やら楽隊やら神官やら総勢17名をのせたバン(教訓1:神事に道交法なし)は、小倉一の繁華街である堺町紺屋町界隈にむかった。めざすは料亭やら割烹やら高級クラブやらバーやらスナックやらである。
■訪問先のお店は最終的に30軒をこえたが、そのうちの約半分が常連のお店で、残りが「とびこみ」のお店である。常連はわりと上物の店が多く、とびこみは際物ねらいといった感じである。
■ターゲットを決めると、はじめに八坂神社の法被をきた下っ端(わたしもこの下っ端の一人であった)がお店の人に挨拶をして、お客さんに豆まきの主旨とやり方を説明する。つづいて笛と太鼓をもった楽隊が入りお囃子を始める。
■そこで鬼が登場する。鬼役は三人いたが小さなお店では適宜人数を減らす。鬼はお囃子にあわせて踊りながら、さんざん店をあらし客を脅かす。なかにはご祝儀のお酒を勧めたり、いっしょに写真をとったりするお客もいる。
■適当なところで、神官が「鬼はそとー」と声をかける、ここで客はあらかじめ配られていた豆をまき、鬼が退散する。曲の節回しがかわって今度は福の登場である。福は榊の葉を手に持ち二度三度お祓いをすると礼をして立ち去る。そのあと会計係がお店のご祝儀を受け取り必要におうじて領収書を渡す。
■ざっとこんな段取りである。お店によってはひととおりの神事が終わったあと、ふたたびスタッフを店の中に入れて、お酒をふるまってくれたりもする。いずれにせよ十軒もまわるうちに鬼はもうめろめろの泥酔状態である。
■ことしの二月三日が月曜日だったこともあって、盛り場の客足は例年にくらべると今一つだったようだが、それにしても夜の街の様態は、経験値の低い私にとってはおどろくことばかりであった。
■ウエディングドレスのような真っ白なレースの服を身にまとった女性たちが行き来する高級クラブ。年齢不詳の舞妓さんがたむろするちまた。そんな女性を引き連れて歩くテラテラ系赤ら顔のおやじ。客の数より女の子のほうが多いフィリピンパブ。化粧をしてないおかまバー。みるからに高そうな料亭の奥座敷に陣取る恰幅のよいめんめん。飛び交うご祝儀のおさつ。酔っぱらいのバカわらい(教訓2:たがために金はある)。
■神社がわも神社がわで、神事でありながら年に一度の道楽といった感じで、自分たちがふだん遊んでいるお店を重点的にまわったり、鬼が仕事の合間にお水系の女の子をナンパしたりと大変だった。無礼講といえばいいのだろうか、この日本的風土のいいかげんさがたまらないのである(教訓3:信じるものにすくわれる)。さんざん豆まきをして、帰路についたときには日付がかわっていた。
■実際のところここにはちょっと書けないようなこともあった。このすばらしい豆まき行事の一部始終は、最新型デジタルビデオによってきっちり記録されている。すでに第一回秘密上映会も敢行された。宗教および民俗研究者など興味のある方は連絡されたし。
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