留守本部の心得(緊急時の安全確保) 幸いこれまで九州フィールドワーク研究会(人類学ゼミ)では一度も大きな事故は起きていないが、調査に際しては留守本部を設置し、調査者の安全を確保し、緊急事態に対応できるように万全をはかる。 <留守本部の設置> 海外調査および長期調査を行うもの(以下、調査者)は、事前のゼミで研究計画を検討したうえで、調査中に定期連絡をとり緊急時に対応できる連絡体制(以下、留守本部)を設置しなければならない。調査にあたって調査者は、留守本部に、1:調査内容・2:調査日程・3:現地活動に関連する連絡先・4:調査者のパスポート番号・5:生年月日・6:血液型・7:緊急事態の際に連絡すべき人(以下、保護者など)の連絡先の7点を伝える。 <事前対策> 調査者は、各自で、緊急事態に対する保障や救援費をまかなうために保険に加入しておかなければならない。現地の政治状況や交通、感染症などの情報を集め、必要な予防接種を受けておかなければならない。また日程や調査内容、留守本部の連絡先について、保護者などに伝え、調査に対する承諾をとっておかなければならない(この留守本部の心得も渡す)。 <連絡方法の確保> 調査者は移動日や活動の状況に合わせて、連絡日を決め留守本部に連絡をする。連絡日は2週間に1度程度で、予備日などを設定し、状況に応じて可能な限り柔軟にとりきめ、本人が連絡を取れないときも、現地でのカウンターパートなど複数の連絡方法を確保しておく。やむを得ず連絡が途切れる可能性がある場合も、その可能性を留守本部と調査者の両者で確認しておく。保護者などに対しては、留守本部とは別に調査者本人が状況を連絡する。 <留守本部の待機> 調査者に必要な現地情報を送るなど、留守本部は調査者を遠隔でサポートする。留守本部は調査者の調査日程と連絡先を把握し、特に連絡日や移動日には、つねに連絡が取れる状態で待機する。そのさい可能な限り「双方向」の連絡がとれるようにする。連絡の状況については、掲示板などで他メンバーに伝える。 <対策会議の招集> 連絡日(予備日)に連絡が入らない場合、あるいは対応の必要な緊急事態が起きたという連絡が入った場合は、留守本部はただちに対策会議を召集し、この時点で留守本部は対策本部と変更する。 <対策会議の役割> 対策会議は事態の緊急性を検討し、必要に応じて保護者などと連絡をとる。また、調査者に伝えるために、随時、現地の治安・気象・交通などの情報を収集し、必要な国内支援をおこなう。 <調査者の対応> 調査者はまず自分の安全確保を最優先して行動するが、可能な限りすみやかに留守本部と連絡を取り、状況を説明する。いうまでもないことだが連絡日(予備日)に連絡を忘れるというミスは論外である。また自力で解決した事態についても随時留守本部に連絡する。 <現地救援> 調査者からの要請があった場合や、対策会議で検討し必要と判断された場合は、現地への救援をおこなう。その際、対策本部は日本にのこし、救援担当者を派遣する。対策本部がもっとも現地に詳しい場合などは、柔軟に対応し、後述するように対策本部の交代も検討する。救援担当者もまた対策本部と連絡をとり、二重事故がおきないようにする。 <状況報告と救援要請> 対策会議で事態の緊急性を検討し必要と判断された場合は、調査計画などを添付した文書資料を作成し、関係各所(大使館・領事館・警察・現地救急など)および大学(教務管理係あるいは学生課)に状況を伝える。さらに自力での現地救援が困難な場合は、救援要請をおこなう。 <情報の一元化> 集められた情報は必ずすべて対策本部につたえ、情報を一元化する。また外部に対する情報発信も、すべて対策本部(あるいは専門担当者)を通しておこなう。 <マスコミへの対応> マスコミへの対応は、必ず対策本部(あるいは専門担当者)を通じておこなう。対策会議のメンバーであっても、不正確な情報を発信し状況を混乱させてはならない。 <保護者などへの対応> 保護者などとはできるかぎり頻繁に連絡を取り状況を伝え、不安や誤情報が起きないようにする。可能であれば調査者が直接連絡を取る。特に救援の際には、必要に応じて行動をともにし、サポートをする。 <柔軟で冷静な対応> 緊急時にはしばしば想定外の状況が起こる、この心得だけでは対応できない場合もある。対策会議は、調査者の安全を最優先し、最大の能力が発揮できるよう、できる限り柔軟かつ冷静に対応する。状況に応じて留守本部や対策本部の担当者を変更してもかまわないが、その旨を調査者・対策会議・関係者などに周知し、引継の混乱のないようにする。 <安全確保> 調査者の安全が確保された時点で、対策本部は留守本部となり、通常の留守本部の任務に切り替える。 <事故報告> 事態の収拾後、留守本部は調査者とともに情報を整理し、関係各所に事故報告をおこなう。また保険の手続き、必要な御礼や謝罪など、事後整理にも協力する。 <想定される緊急事態> 緊急事態として想定されるものは、頻度の高い順に下記のとおりである。病気・怪我・旅程の変更・物品金銭の紛失・人間関係のトラブル・盗難・災害・交通事故・遭難・政変。通常は対策本部の設置までに至らない事態がほとんどであるが、留守本部への連絡は必ずおこなう。 <留守本部への感謝> 調査者は、調査中における留守本部の責任の重要さと、留守本部への感謝の気持ちを忘れず、しかるべきおみやげを買ってくる。