【狂103】人類占拠さる・その後・今日

95/9/16

■いやあ、大変な一日でした。ついさっきまで事情聴収をうけていましたよ、わたしは。

■【狂電86】で報告したように、人類旧館は「きんじハウス」と名を変え、複数の学生その他の人々の、生活の場になっていたのだが。先月なかば頃に、どうも中に窃盗常習犯が出入りしていたらしいということで、警察が立ち入り捜査をするという事件が起きてしまった。

■そのどさくさに紛れて大学当局は、中に持ち込まれた多量な家具・布団類を運び出し、事実上建物を封鎖し、電気を止め、はやばやと取り壊しのための手続きを整えたのである。

■取り壊し作業は2週間ほどまえから始まり、まず手前にある旧職員組合の建物が撤去された。そして、来週にも人類旧館に手をつけようという状態であった。そんな夜に、新たな事件が起きた。

■7時35分、机にむかって熱心に研究をしている私の目に、窓の外で燃え上がる炎が飛び込んできた。一瞬だれかがたき火でもしているのかと思ったが、あまりに炎が大きすぎる。変だ。しかも場所は人類旧館の玄関である。

■私が隣の部屋にかけこむと、そこに残っていた院生(女性ふたり)は、すでに火事に気づき双眼鏡で現場をおっていた。放火だ。犯人は窓から丸見えである。3〜4人の若い男(?)たちが、火炎瓶を投げている。ガラスが割れる音がする。とりあえず、119番通報し、私は研究室内にあったカメラを手に、四階からエレベータでしたにおりた。

■けんかをしても勝てそうにないから、自転車でちかづき、写真だけとって逃げようという消極的な作戦である。しかし、私が下におり現場についたときにはすでに、犯人らしき人々は見あたらなかった。私がおりている間も双眼鏡でずっと見ていた四階の女性ふたりに、下からたずねると、男たちは私が現れる直前に、すぐ近くにある理学部自治会の建物あたりで見えなくなったという。

■不思議なことに、私は、その周辺を自転車でまわっているのだが、怪しい人が歩いているのを見ていない。ただ理学部自治会の中には数人の男性が歓談していた(彼らをうたがう決定的な証拠はないが、警察や消防が来たあとしばらくして、彼らはいなくなってしまった)。

■そのあと、消防が到着し警察がきた。第一発見者でありかつ通報者である私と同僚のふたりに対する、冗長な事情聴収が始まった。

■この事情聴収がまずもってバカげているのは、まず警察は消防と全然協力していないことである。われわれは、別の人に同じことを何度も話さなければならなかった。基本的にいって、消防の人はものごし丁寧でいろいろとたずねていたが、警察は高圧的で、人の話をきこうともせず、自分の知りたいことだけを言うのである。いわく、私の名前・住所・電話番号・どんな研究をしているのか・なぜ休みなのに研究室にいたのか、などなど。

■その建物が占拠されていたという話も、警察は、消防の事情聴収の結果を横できいてはじめて気づくという、お粗末さである。私たちは警察があまりに通り一遍のバカなことしかきかないので、犯人逮捕の参考にと「現場のすぐ近くなのだから理学部自治会にいた人にも事情を聞いてはいかがですか」などと権力の犬にこびを売るような反動的な発言を、なにげなくしたのだが、警察は完全にそれを無視していた。だいたい「犯人がどちらに逃げたか」とかそういうこともほとんどきかないのである。

■みるに警察は、なにがおきたかという記録に夢中で、犯人を捕まえるということにはとりあえず興味がないようであった。ばかばかしいので、私たちも途中からは、あえてこちらから話を持ちかけるのはやめてしまった。消防の人がそのあとで話をきき理学部自治会の建物をのぞいたときにはもう中には誰もいなかった。(もちろん、だからといって彼らの中に犯人がいたかどうかは不明であるが)。

■事情聴収が終わって解放されたときには、9時をまわっていた。第一通報者は異常に消耗するということを、身を持って学んだ一日であった。みなさんも気をつけてください。なお、人類旧館はコンクリートでできているために、外壁が焦げたのみでほとんど無事でした。

■おおお、これを書いている現在、深夜11時20分、今、研究室の窓からまた怪しげなふたりづれが、現場に現れて、いま、しきりに写真を撮っているのが、見えます。消防・警察・大学関係の人々は2時間ほど前にすでに帰ったみたいなんですが・・・。ネクタイしてます。うろうろしてます。もうちょっとふたりの挙動を観察してから発信します。

■いま、毎日新聞社から電話がありました。そとにいるふたりも、どうもブン屋さんみたいです。おなかがすいたので、私は発信して家に帰ります。


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