【狂79】日常にひそむ数学の話・その2

95/5/17

■私がこのごろ非常勤に行っているH安女学院短期大学は、かつては京都市内にあったが、キャンパス移転をおこない、現在では京都から一時間半ほどかかる高槻市の丘陵地にある。授業は朝の一時間目なので、その日ばかりは私もがらにもなく早起きをして、JRにのって学校にむかうのである。

■さて、高槻駅からの交通機関はバス以外にない。朝の七時半から八時半にかけて、およそ5分おきにH安女学院方面に行くバスが出ており、20分ほどの道のりである。しかし、これらのバスはほとんど短大のスクールバスと化し、中はかなり満員状態で、女子大生の異様な熱気でむんむんといった感じなのである。

■そこで問題である。駅からおりバス停に向かうと、バスに乗るための学生がずらりと並んでいる。

ΩABCDEFGHIJKLMN・・・
↑バス停

■便宜上、並んでいる学生のグループを10人ごとにまとめて前から順にABCと名付けておく。また、バスは40人のりであり、そのうち20人が椅子に座れるものとする。

■列に並んでいる人々の代表的な思惑にはたとえば次のようなタイプがある。

「思惑1」 なんとしても一番早いバスに乗りたい

「思惑2」 一つ遅れてもいいから座りたいが、座るために二つ遅れるのはいやだ。

「思惑3」 二つ遅れてもいいから座りたい

「思惑4」 いくつ遅れてもいいから座りたい

■さて、バスがやってきた。上の図のABの学生は座れるので文句なしにバスに乗り込む。続くCDの学生のうち「思惑1」の者はつづいてバスに乗るが、「思惑2」の者はその場で立ち止まり、次のバスを待つ。もし「思惑2」の者が多ければ、バスに乗る権利はEFに回ってくる。EFのうち「思惑1」の人は喜びいさんでバスにのるだろう。

■問題はEFの「思惑2」の者である。もし自分がEFの中で前の方におり、CDの学生に「思惑1」の者が多ければ、次のバスでは座る権利が生じるので、一つ待てばいいのであるが、もし自分がEFの後ろの方におり、CDの学生に「思惑2」の者が多かったとすると、次のバスを待っても座れる保証はない。どうせ座れないなら、先のバスに乗った方がましである。

■さらに判断に迷ってもたもたしていると、自分より後ろのGFから座れなくてもかまわない「思惑1」がなだれ込んでくるので、そうするとますます自分よりも前の人が多くバス停に残ることになり、次のバスで座れる可能性は低くなる。

■ここでは、わかりやすくするために、「思惑1」と「思惑2」の問題だけを取り上げたが、中には「思惑3」や「思惑4」の人もおり。その人数次第で試算は大きく狂ってくる。

■私のように、できる限りこのむんむんバスの中で立ちたくないと考える内気な 男の子は、当然「思惑3」や「思惑4」を選択しようとするのだが、いくら待っ ても予想外に列は進まず、どんどん後ろから抜かれるといった事態に遭遇してし まう。

■まわりの状況を判断し自分の行動を選択するまでに与えられた時間は、バスが到着してからほんの数十秒といったところである。その間に的確な行動を起こせればよいが、それに失敗すると、いつまでたってもバスに乗れないか、最悪のむんむん立ちである。

■私は、一つバスを遅れた場合に−3点、座れなかった時は−10点として、損失を最小化し利益を最大化するミニマックス理論によって、毎回この難問の合理的解答を求めようと試みるのであるが、解答が出た頃には、いつもバスが出発してしまっているのである。

■狂訓:女子大行きのバスは最低である。


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