[KOK 0252] こくら日記のトップページにとぶ 19 Feb 2005

携帯食五輪

 

旅のお供にお弁当。ちまたでは飛行機の中で食べる空弁なるものがはやっているようだが、移動する乗り物の中でなにかを食べるという行為は、旅行の楽しみという以上に、なんかこう「今度の仕事はまいったよなぁ」みたいな感じで、忙しいビジネスマンが自己を確認する神聖な儀式のようにこのごろは思うのであります。

そんなときサキイカを片手に缶ビールというのも、なかなかさまになっている正しい姿なのだけど、私はなんといっても柿の葉寿司であります。緑の葉を丁寧に解いて中からぷっくりとした鯖の身の断面があらわれると、和歌山の漁師さん上等な魚をありがとう、兵庫のお百姓さんおいしいお米をありがとう、奈良のおばちゃん包んでくれてありがとう、京都のお酢やさん伝統の味をおおきに、大阪の食い道楽もなかなかやるやんけ、と関西地方への感謝の気持ちが全面展開になるのであります。

あまいケチャップまみれのスパゲッティや、黄色に着色されたタクアンと蛍光ピンクがまぶしい桜漬けの漬け物コーナー、しおしおの千切りキャベツ、そしてそんなものに取り囲まれたハンバーグだのトンカツだのが、定番のお弁当世界を形成しているのだとすれば、柿の葉寿司は柿の葉と寿司のみ。しかしこの存在感、まさに携帯食の王道といって過言ではありますまい。

さて、そんなわけで、新幹線の中で柿の葉寿司をほおばりながら、人類の携帯食におけるぎりぎり肝要な徳とはなにかなどという哲学的な思索を開始した私であります。

古今東西さまざまな食を人類学的に概観するに、携帯食とはタンパク質(うまみ)と炭水化物(満腹感)の複合体であると思われます。おおむねこのふたつの要素をどのように組み合わせるかが携帯食の個性となるわけですな。そこでいきなりですが、実際の携帯食を例に挙げ、それぞれの性質を分析しつつ、世界の携帯食王座を競いたいと思います。

評価基準として、下記の5つのポイントをあげました。

食べやすさ
作りやすさ
暖かさ
保水量
具の量

  食べやすさ 作りやすさ 暖かさ 保水量 具の量
サンドイッチ × × ×
ハンバーガー ×
カレーパン × ×
肉まん ×
サモサ ×
ピロシキ ×
タコス × × ×
オヤキ
おにぎり ×
押し寿司 × ×

まずは食べやすさ。携帯食の場合もっぱら手で食べるわけで、その際手が汚れないこと、中の具がこぼれないことあたりが必須条件になります。肉まんに×をつけたのは、下についている紙もしくは薄い木のシートをはがすと、煮汁と具が大量流出事件をおこしてしまう構造的欠陥隠しによるものです。リコールものであります。同様にサンドイッチやハンバーガーの具をこぼさないで食べる方法を私は知りません、で×。押し寿司も柿の葉寿司のようであればよいのですが、通常のバッテラなどはやや手が汚れるので△。その点、おにぎりとノリの組み合わせは完璧です。

続いて作りやすさ。携帯食は手軽さがとりえですから、作りやすいことも重要な要素です。ハンバーガーやサンドイッチはさすが不器用な西洋人の発明品、はさむだけで簡単にできるので○。肉まん包子系は突き詰めれば4000年くらい奥が深いので△としました。まあ、このあたり特に異論はなかろうかと存じます。

そして暖かさ。本来、携帯食に求めるものとは矛盾するのですが、暖かい方がおいしい気がしませんか?ええ。

保水量。これは案外見落とされがちな要素です。携帯食であるからにはどんな過酷な状況にも対応しなければなりません。たとえば揺れる列車の中で片手がふさがれた状態でテーブルがなかったらどうしますか?お茶飲めないでしょ?こういうときぱパサパサな携帯食はダメです。自らが適度に水分を補給しながら喉下に流れ込んでいくようなものでなければなりません。あまりネバネバでは喉につかえて元も子もありませんが、パサパサよりはましと判断いたしました。

そして最後に具の量。うまみと満腹感のバランスは非常に難しいところでありますが、ここはうまみを重視して評価しました。ここまで順調にきた「おにぎり」に千秋楽で土が付いてしまいました、残念であります。戦後の日本をささえた伝統食おにぎりでありますが、このまま現状に甘んじていればグルメな現代においては生き残れないというぞと、期待も込めた辛い評定です。カレーパンは一部の悪徳パン屋で空気が大部分で具がほとんどないという業界の現状に警鐘を鳴らすという意味で×としました。

さて、以上をもちまして第一回世界携帯食コンテスト競技はすべて終了いたしました。これから表彰式に移りたいと思います。もう一度さきほどの表をご覧下さい。全体的に安定してバランスのよい得点をとっているのは、おおかたの予想を裏切って「おやき」であります。そば皮と具のマッチも絶妙です。国歌「信濃の国」の斉唱であります。ファディッシュな知事さんもさぞかし喜んでいることでしょう。おめでとう。おめでとう。もうまよわずに、進んでほしい、栄光のかけ橋へと、海こそなけれ、物さわに、万ず足らわぬ事ぞなき。それでは、みなさん4年後に北京でお会いしましょう。

※今回の大会にはまにあいませんでしたが、沖縄の魚のテンプラは次回金メダリスト候補です。また、もうひとり沖縄から期待の新人です。笑築過激団マネジャー・玉城たずこさんが発明した「のり棒」


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