[KOK 0232] こくら日記のトップページにとぶ 19 Jul 2003

生命力

 

曾根干潟の漁師さんに天然物のウナギをご馳走していただいた。首根っこに千枚通を突き刺し、新聞紙で胴体を押さえながら、研ぎたての包丁で5匹のウナギを手際よくさばく。切り裂かれていく半身が宙をつかむようにくねくねと暴れる。最後に切り落とされた頭がぱくぱくと口をうごかして逃げようとする。心臓はいつまでたっても動きを止めない。

「ウナギはセイがあるからねぇ」漁師さんはいう。精・生・勢・盛?セイがあるものを食べるとセイがつく。セイとはすなわち生命力。過酷な環境や、身体的なダメージに強く、なかなか死なない力。その生命力にあやかって自分の生命力を高めようと考えるのだろう。ポリネシアのマナに代表されるようなよく似た民間信仰は世界各地でみられる。

ところで、この「生命力」ってなんだろ。生物学的にいうとこれはどういう現象をさすのだろう。

カメは生命力が強いという。たしかにソロモンで捕らえたウミガメは細かく肉に切り分けられてもまだ動いていた。ゾウムシはクワガタムシよりも生命力がある。子供のころ餌がわからずに、虫かごの中でほって置かれたゾウムシはいつまでも生きていた。ホウネンエビはすぐ死んでしまうが、アメリカザリガニはなかなか死なない。農薬に弱いトノサマガエルはすっかり田圃から姿を消したが、イボガエルとよんで忌み嫌ったヌマガエルは今でもたくさん飛び跳ねている。

クマムシ

緩歩動物門というちょっと変わった仲間であるクマムシは、非常に生命力の強い生物として知られている。環境が悪化すると樽状に体型を変え、絶対零度に近い低温や、極端な乾燥、X線や真空状態にも耐えるという。体調が一ミリ以下の微生物であるが、どこにでもいる。ぜひ佃煮にでもして食すべきであろう。

生命力のある生き物は、温度の変化や化学物質など環境に対する適応性が高い。病気やけがなどのダメージを受けたときの快復もはやく、近縁の生物に比べて一般的に長寿の傾向がある。

単純に考えれば生命力があるに越したことはないだろう。しかし実際には、進化の過程で、生命力の強い生き物も弱い生き物も両方とも存在している。これは単に相対的な問題なのだろうか?それとも生命力が弱いことのメリットというのがあるのだろうか?たとえば生命力の強い生物は、その強さを維持するために高いコストを払っているのだろうか?

特殊化と普遍化という問題と、生命力は関係あるのかもしれない。特殊な環境にあまり適応しすぎると柔軟性がなくなり、環境の変化に対して弱くなる。ならば、いわゆる普通種と呼ばれるニッチェの広い生き物は比較的生命力が強いのだろうか。

さて、人間の生命力は?野生動物を飼っている人の話を聞くと野生動物は麻酔が無くても手術に耐え、ペットにくらべて快復も早いという。では自己家畜化された人間の生命力はどうなのかな。


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