English and tips

[KOK 0167]

19 Jun 2001


「コロス!」ソロモン人の男は怒りをあらわにそういった。

ピジン英語で「怒る」という言葉は"kros" という。ソロモンではじめてこの言葉を耳にしたときてっきり日本語から転化した言葉なんだろうかと思った。そしたらなんと正真正銘のQueen's English だったのだ。イエスキリストが十字架の上で「クロース」と叫んだからそうなったらしい、というのは今考えた嘘である。

イギリスの英語では "cross" は頻出単語だ。とくに子供の絵本ではしょっちゅうお母さんがクロス状態になっている。 angry という言葉は意味が強すぎるのかほとんど聞かない。きっと、お母さんがアングリーになったら家庭が崩壊してしまうのだろう。

同じくソロモンで一番高い6階建てのビルを自慢してた人が、"6 stories buliding." といった。6ストーリーズ?ストリートの間違いか?それともフロアーごとにいろんな物語があるという意味か?いずれにしろ変な英語だなぁ。ソロモンだからまあいいか。ところがどっこい、これまたごめんなさい。まごうことなき正統のイギリス英語でありました。

われわれが日本の学校で習っている英語は、たぶんちょっと不思議な英語で、アメリカ英語の語彙をイギリス英語の発音で教える感じ(それをさらに親切にも先生が日本語英語の発音に直してくれるのである)。

高校の時にはじめてアメリカ行って、学校の英語とぜんぜん違うのに驚いた。語尾のティ[ty]の発音はみんなリィ[ly]に聞こえるし、しゃべり方も単語が妙にリエゾンして切れ目がなくてなんかモゴモゴきこえる。

まあ、よく言われることだが、アメリカとイギリスの英語はちょっと違う。イギリスに来てマザーグースの本を探したのだがそんな物はどこにもない。リズム"rhythm"とまちがえて、「子供のためのライム"rhymes"」というカセットテープを買ったらそこにハンプティダンプティがいた。

アメリカのおばさんたちはやたら「キューキュー"cute"」といいながら、一時期の女子大生のように「かわいーかわいー」を連発していた。イギリスではちょっとニュアンスが違うがもっぱら「ラヴリー"lovery"」という。フォークが転んでもラヴリー。なんかこっちの方が上品な気がするが、たぶん気のせいだろう。本質的な脳の働きは世界中あまり違わないと思う。

"I guess(思うんだけどぉ)" なんていうゲスの勘ぐりのような品のない言葉はイギリス人はあんまり使わない。かわりに"For my opinion(わたくしの見解では)"という(これはオックスフォードだけかもしらん)。それと謝るときに"Excuse me" も使わない。これってちょっと堅い感じなのかな、たいてい"Sorry"ですましちゃう。ソリーソリーはほとんど口癖のようだ。

そんでもって、ありがとうはもっぱら"cheers"だな。発音はチァースではなくてまっすぐチーッスだ。業界や体育会系サークルで「ちわーっす」っていうときのあの感じで「チーッス」だな(どんな業界だか)。

hasi
リンゴとパブ

だいたいコーチってなんだよ。バスっていえよという感じだ。システムがよくわからないまま、こちらが家族で「大人二枚子供一枚」" 2 adult and 1child"って券買おうとしたら、運転手はしつこく「シングル」"Single?"などと聞いてくる。みりゃわかるだろこちらは「ファミリーだよ」"No! family" 。

すると"Single or return?"という、なんじゃそりゃ?片道と往復かいな。"1way 2 way" じゃないの?しかもリターンとくるか、"round trip"とか"go andback"とかいわんわけね。そんでもって子供はハーフ"half"だってさ。"2 andhalf return please." 簡単でいいね。ついでにいうとイギリスには舞台指導員 Stage coach という名のバス会社がある。

ところでバスの運ちゃんって入れ墨してて、[ei]を[ai]って発音する人が多い。「ソリー トゥダイ アイヴ ビン ライト バィ トライン アクシデン」"Sorry,today I've been late by train accident."てな感じ。はじめはオーストラリア帰りかしらと思っていたが、どうもイギリスの中にもそういう発音の方言があるらしい。なぜだかその地方の人ばかりが、伝統的にバス会社で働いたり、オーストラリアに移民したりしたのだろうな。たぶん。

そんなこんなでイギリス英語にはずいぶん慣れてきた。だから話す英語も妙に回りくどくなってきた。たとえばイギリス人にものを頼むときには、プリーズだけではだめだ。「アイワンダイフユウドゥマイン〜」"I wonder if youwould mind"「もしあなたのお気に障るのであれば、わたくしはとまどうところのものでありますが・・・・」という呪文をいちいち頭につけなくては、なにもいうことを聞いてくれない。しかもあまりに回りくどいために答えのyesとnoまで逆転してしてしまうことに注意だ。

なにが本心でなにが嘘だかわからないのは、基本的に京都人と同じだ。イギリス人に言わせると会話はとにかくポジティヴにポジティヴに、そのためなら嘘をついてもいいというのだ。イギリスの英会話教室で最初に習うのは、"Thankyou very much. I am so happy with it, buuut..."「まあほんとにありがとう、とってもうれしいわ、でもぉ」の構文だ。

かくのごとく私の英語力(そんな力が物理的に存在するのであれば)はめくるめく上達しているのだが、このごろ不思議に思うこと。英語で話をしていると妙に記憶が悪い。数字とかを聞いてもすぐに忘れてしまう。これは連関記憶のメカニズムを解く材料になるかもしれない。年のせいではないと信じたい。

そして本や新聞を読む早さも日本語の4倍くらいかかる。単語の意味や構文がわからないというよりは、むしろ斜め読みができないのが痛い。ここにもなんか認知に関わる課題があるような気がする。

ところで今日本屋で"The Ape And The Suhi Master"「猿と寿司職人」という本を見つけた。Frans de Waal という人が書いている。"cultual reflectionsby a primatorlogist"「猿学者による文化的影響」という副題がついていた。社会生物学者のエドワード=ウィルソンが推薦文を書いている。ちょっと立ち読みして面白そうなので思わず買ってしまった。

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Takekawa Daisuke