ひよこたち

[KOK 0159]

03 May 2001


生まれたばかりのひよこたちは、裏の木戸をあけると母親につれられて外にでて、次々とテムズ川に飛び込んだ。増水中のテムズ川の流れは速い。みんな初めて泳ぐにもかかわらず器用に群をつくって進んでいく。いつの間にかオスの鴨がよってくる。父親だろうか。

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水にとびこむ

そしてそのまま鴨の家族は上流の藪の中に消えていき、庭に戻ることはなかった。「帰ってこないね」と夕闇せまるテムズ川を見つめる葵の目は、少し潤んでいた。わずか一日だけの短い出会いだった。

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およぐこどもら

そういえばずっと前に、カルガモのお引っ越しが日本で話題になったことがあった。鴨には安全な場所で卵をかえし、子供が産まれると水辺に移動する習性があるのだろうか。

鳥の子供には二種類のタイプがある。ひとつは、はげっちょろけで目だけが大きくて巣で餌を待つ「ヒナ」タイプ。もうひとつは、産毛が生えていてすぐに歩けて自分で餌を探す「ヒヨコ」タイプ。

ツバメやヒバリやタカは前者。キジやダチョウやハクチョウは後者。なぜか一般的に後者の方がかわいい。かわいい戦略で外敵から身を守るためだろうか。そしてたぶん後者の方がたくさんの兄弟をもっている。うちの鴨も13羽いた。親の庇護を十分受けられないので多産戦略なのだろうか。肉食と草食の違いもあるような気がする。

イギリスの4月の夕刻はまだ寒い。「みんな、近くの川沿いにいるはずだから、日曜日にでもまた探しにいこうよ」いって裏の木戸を閉めた。

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Takekawa Daisuke