ピアス

[KOK 0152]

15 Apr 2001


「ピアスをしたい」という。おもちゃのではなくて本物の。葵は去年からそれを楽しみにしていた。イギリスではアクセサリーのお店で気軽に穴をあけてくれる。イースター休暇のあいだにつけたいという。

なぜだか知らないけど、ぼくの心の中でちょっとした抵抗感があった。「どうしてピアスをしたいのか」なんて問い返してしまう。

「したいからしたい」それはそうだ。「でも、穴をあけるのは痛いよ。傷口が膿んでくるかもしれないよ」。そんなことを言ってみたりする。「痛くても我慢する」決心は固い。

ピアスなんてイギリスではごくふつうだ。ぼくの抵抗感は日本での生活が頭によぎったからだろうか?でも、うまく説明できない。

たとえばピアスではなくて「入れ墨をしたい」といわれたらどう答えたらいいのだろう。大げさだといわれるかもしれないが、理屈としては同じことだ。ソロモンの子供たちは気軽に入れ墨をしている。

「そういうことは大人になったらしたらいいんじゃないか」思わずいってしまう。まるで頭の悪い中学教師のようなせりふだ。昔いちばん毛嫌いしていたタイプだ。

儒教的な倫理観にもとづく身体装飾に対する抵抗感だろうか。「親からもらった体を傷つけはいけない」。まさかまさか、親はぼくだ。

「でも日本の小学校ではピアスはつけられないよ」と説明すると「わかった。日本ではつけない」という。「どうして?」という質問がでないのは幸いだ。

「文化習慣の違い」「みんなしてないから」どうせろくな答えはできはしない。でもいつか彼女もそのことについて考えなくてはならない時がくるはずだ。

耳に穴をあけた小学生なんて、まあかっこいいけど、それだけに日本ではいろいろとうっとうしいこともあるだろうなと思いながら、彼女の熱意に折れた。最終的には彼女本人の問題だ。

hasi
お店でバチン

異文化を理解するというのは、なにも言葉を覚えたり、知識を紙に書き記すことばかりではあるまい。穴をあけるときは緊張していた彼女が、ピアスをつけるとうれしそうにいった「ぜんぜん痛くなかったよ、大介もやってみたら?」。ちょっと「どきっ」とする。

hasi
ピアス

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