さようなら20世紀と愛知万博

[KOK 0126]

22 Jan 2000


進歩と調和による輝かしい未来を提示したのが大阪万博だった。いま見るとうらさみしさすら感じる太陽の塔(背中の顔がぼくは好きだが)は、まさしくその象徴として日本の20世紀を代表する遺構となるだろう。

以前にこくら日記59・60「人間活動と環境」で取り上げた、海上(かいしょ)の森で2005年に開催を予定している愛知万博に関して新たな情報があった。1999年11月18日におこなわれた博覧会国際事務局(BIE)と通産省の面談議事録が明らかにされたのである。

このやりとりがおもしろい。その全文は以下のホームページにある。そこから一部引用する。

http://www.asahi.com/paper/special/aichi/index.html

BIE
【フ】フィリプソン議長【ロ】ロセルタレス事務局長

通産省
【藤】藤岡誠審議官【山】山田尚義博覧会推進室長【村】村崎勉博覧会調整官

(前略)

【フ】率直に質問させてもらおう。これだけのアセスメントを博覧会に対してはするのにもかかわらず、愛知万博の後には、山を切り崩して土地開発をし、団地を建てるのではないか、ちがうのか? YESかNOかで回答願いたい。これが私たちに寄せられている環境団体からの批判だ。

【山】はっきり答える。それは、YESだ。しかしながら、それは跡地利用計画のことで、国際博覧会計画ではない。

【フ】では、その跡地利用は環境破壊になるのではないか?

【山】そうなる。

【フ】そうだろう。私たちは、それを言わんとしている。

【山】(新住計画の完成予想図を提示しながら)だから、(跡地利用計画に対しても)愛知県は環境を保全できるための計画をしている。

【フ】それらの手続き上のことは関知しないが、簡単に聞かせてもらおう。この不動産開発はよいことか。悪いことか。

【藤】…………。

【山】(口を押さえ天井を見上げながら終始無言)………。

(中略)

【フ】しかし、これ(前述予想図)が私たちが今見ているもののすべてである。そしてこれは、非常に大規模な20世紀型の土地開発であると、私には見える。山を切り崩し、木を切り倒し、4―5階建ての団地を建てるこのような計画こそ20世紀型の開発至上主義の産物にほかならないのではないか。それは、あなた方のいう博覧会テーマの理念よりは、対極にあるのではないか。

【山】そうだが……。

【フ】ご理解していただいたことに感謝する。

(中略)

【フ】愛知博には、将来へのアピールがない。にもかかわらず、新住の開発が愛知博の陰にある。この絵(前述予想図)を見て、私が感じる嫌悪感と同じものを世界は感じている。そして、あなた方自身も同じことを感じているはずだ。

【ロ】我々は当初丘陵地帯での博覧会開催計画だと聞かされていた。それが実際に見てみると、山の中での開催計画だった。今回も、当初、環境と同化したリサーチセンターの建設だと聞かされていたものが、実際は山を切り崩す宅地造成計画だった。新住計画があると聞いてはいたが、それはこのような不動産開発ではないとの説明であった。

【山】住宅は建設するが、それはリサーチセンターの人が住むもの。その人たちが、森の手入れをし、自然と共生して生活することになる。日本人はこのような生活を昔からしている。

【ロ】だが、この住居は3―4階建てだ。昔ながらの生活というより、20世紀型の開発そのものだろう(笑)。

(後略)

大阪万博のときの千里ニュータウンのように、かつて、万博のような国際イベントは開発の起爆剤となっていた時代があった。この愛知万博も「自然との共生」をテーマにあげながらも実際には、跡地を住宅地開発するという土建がらみのイベントであった。

しかし、だれもがそれを解っていながらも、これまでそれに反対する勢力はむしろ少数者だった。開発という言葉の誘惑と、発展をもとめる欲望に勝てないまま、人々はうつむいて押し黙っていた。

愛知県は広い平野を抱えているし、土地も安く、決して住宅不足が問題になっているわけではない。たとえ、首都移転を見越した政治的な意図があったとしても、これから人口が減っていく中で、あの山を削る必然的な理由は乏しい。理由としてあるのは、ただ20世紀的「進歩」幻想だけである。

昨年、沖縄海洋博のモニュメントがひっそりと取り壊されたように、すでに20世紀的世界は廃墟への道を転落し始めている。あの時代を生きた人間としては、その廃墟にすらいとおしさ感じるが、同時に、祭りが終わった一抹の余韻を少しのあいだ楽しんでみたい気もする。時代はどう変るのだろうか。

今年、久しぶりに帰省してあらためて気づいたのであるが、海上の森のあのあたりは、ヤムイモの宝庫である。そこでぼくは21世紀的なイベントとしてヤムイモ万博を提案しておきたい。世界各地のヤムアタッカーたちが集まって芋を掘るのだ。「自然との共生」のキャッチフレーズの間に「薯」の一文字さえ付け加えれば、あらためてポスターをすり直す必要もない。

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Takekawa Daisuke