酒話三題

[KOK 0042]

26 Feb 1997


その1

スーパードライがキリンラガーの売り上げを抜いたという。これでアサヒの生ビール売り上げナンバーワン攻勢を阻止しようと、せっかく熱処理をやめたキリンの思惑も大はずれである。しかし解せないのは、麦のかわりに米とトウモロコシをふんだんに使ったスーパードライが、どうしてここまで日本人にうけるのかという点である。私はぜんぜんうまくないと思う。

キリンラガーも決してすきなビールではないが、少なくとも熱処理をやめてから味は良くなった(端的に言えば、「一番しぼり」の味になった)。なのに、売り上げは落ちた。私の味覚がまちがっているのか、それとも商品のイメージダウンがきいたのか?

以前からおすすめのベルギービール「ヒューガルデン(Huegaarden)」が、なんとテレビコマーシャルをはじめた。おどろきである。このごろ小倉あたりでは、セブンイレブンにもこのビールがおいてあり(セントセバスチャンもある)、どうやらベルギービールの仕掛け人がどこかにいるらしい。簡単に手にいれることができるようになったのはうれしいが、ひそかに好きだった女の子がアイドルになっちゃったような、ちょっと複雑な思いである。

しかしこれがどこまでうけるだろう。飲めば味の違いは歴然としているのだけれどねぇ。ところで、酒税法の関係か、このごろ酵母入りのビールは雑酒あつかいになっている、だったら節税分値下げしろといいたいのだが、あいかわらず一本400円である。どーなってるんだ。

その2

2月18日、銘酒「繁枡」で知られる高橋商店の酒蔵見学に行った。朝六時、北九州・福岡・長崎から集合した酒好き隊総勢11名は、福岡県八女(やめ)市に集合した。

繁枡

まだ朝はやく、うすぐらい蔵の中では、すでに蒸し米の作業が始まっており、蔵人や杜氏さんが忙しく働いていた。これまでいろいろな酒蔵を見学したが、仕込みから(しかも吟醸の)すべて見せていただいたのははじめてだ。しかも、われわれのような素人衆に、社長さんみずから、案内をいただき、申し訳ないかぎりだった。

繁枡

高橋商店は享保年間に操業をはじめた酒蔵で、硬水系の八女の伏流水を使っている。多くの地酒の蔵と同様、ここまた蔵人さんたちの季節労働によってささえられ、10月はじめから4月にかけて酒造りをおこなっている。八女は九州ではお茶の産地としても知られ、お茶農家の農閑期のでかせぎや、冬の時期に漁をおこなわない漁師の蔵人もいるという。しかし、近年では13名ほどいる蔵人の半分が通年の専属勤務となっている。

若手のアルバイトも雇っているとのことなので、ここにも学生を送り込もうと考えている。ただし、仕事はかなりきつそうである。蒸しあがったばかりの米を肩にのせながら、釜と麹室のあいだをなんども往復する姿は、見ているととてもかっこいいのだが、やっている方はたいへんだろう。ここの酒造りをみていると、本当に手間をかけてつくっているのがよくわかる。

繁枡

大吟醸はすべて袋吊りでしぼられた雫酒である。これは、酒の本当においしいところだけとり、まだ粥状の酒粕を放棄してしまう、とても贅沢な作りである。以前紹介した吟醸香の焼酎「吟香露」もここの吟醸の酒粕が使われていることがわかった。蔵で、このしぼりたての大吟醸をいただいたが、もう言葉では、とても書ききれないような、濃厚な香りと、口に広がりすっと消えるすばらしい味わいだった。ああああ。至福である。

繁枡

さすがこだわりの吟醸をつくっているだけのことはある。杜氏さんの酒造りにたいする真摯な態度には、心うたれた。正直いって、私はほろ酔い加減でひとり浮かれてしまっていたかもしれない。もしかしたら杜氏さんや蔵元さんには礼を逸してしまったかもしれない。もしそうならお詫びのしようもないのだが、来年もまた行こうと思っている。今度はもっとじっくりと話を聞いてこよう。

繁枡

手元には繁枡の純米大吟醸が三本ある、今年から出荷をはじめた自信作だ。いつ飲もうかなぁ、ふふふ。

その3

最近、岡山の酒蔵「嘉美心(かみごころ)」の絹縒(きぬごより)というお酒を飲んだ。ヨーグルトのような乳酸のさわやかな香りがして、とてもきれの良い不思議な酒であった。おすすめである。うまい。程良い酸味がちょっと城陽の自然酔(よろしくね>Kちゃん)ににている。岡山は地ビール独歩の地でもあり、お酒関係も注目株がおおい(よろしくね>ゲンちゃん)。

酒のうまい季節である。

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Takekawa Daisuke