カラザウルス

[KOK 0023]

23 Nov 1996


これは、架空の物語であると思ってほしい。ある男(仮にDとしよう)が、ちょっとしたことから犯罪に荷担し、その甘美な泥沼から抜け出せなくなった、そんな物語である。

今年の7月のことある、某地方都市の公立大学に勤務するD氏は、大切な電子手帳(仮にザウルスとよぼう)をなくしてしまった。しかも、それは市の備品であった。

それから4ヶ月、11月になってD氏は、もうザウルスはでてきまいと判断し、施設課に備品紛失を届けでた。最初に対応したのはやさしいお姉さんであった。

やさしいお姉さんは、D氏が買ったばかりのザウルスをなくしたことに大いに同情し、「備品廃棄の書類をもってきますね」と奥に引っ込んだ。ところが、

奥には彼女の上司がいた、すでに一部始終を聞いていた上司は、彼女に冷たくいった。「君、それはできないよ」上司の声は、D氏のところまでまる聞こえである。

「君は備品をなんだと思っているのかね。市の財産だよ。備品をなくしたというのであれば、当然その管理責任が問われるわけだ。はいそうですかと廃棄はできんのだよ」

暗い顔をしてやさしいお姉さんが戻ってきた。あとから上司もついてくる。D氏は反省の顔をして下をむく。上司はいう「先生、いま説明したのですが、備品の廃棄はちょっとやっかいなわけです、まあ、方法としては2つあるのですがね。ひとつは、管理不十分ということで始末書なりを書いていただいて、まあ、場合によっては弁償というか。ともかく、いろいろとめんどうな手続きが必要となります。」

やはりそうか。D氏は思った。しかたあるまい。しかし、ふと見ると上司の顔が笑っている。「もう1つの方法はですね、先生。いちおう、このさきも先生がずっとそれをお使いであるということにして、いずれ・・まあ、数年後にですね、壊れたということで・・」

おい。おい。

「どういたしましょう」やさしく問いかける上司。「では、そういうことで」力弱くうべなうD氏。

ふだん一小市民として公務員の不正を批判してきたD氏である。しかし、甘い汁の落とし穴は意外なところにあいていた。これをきっかけにつぎつぎとやってくるであろう悪のさそいを、これからD氏は断りつづけられるだろうか。公務員に反省はない、あるのは、ひたすら事なかれと願う保身のみである。D氏もまた不正公務員への第一歩を踏み出してしまったのだ。

このメイルを受け取ったものは、読んだら直ちに破棄してほしい、まちがってもこれをネタにだれかをゆすろうなどということはしないでほしい。しゃれにならんのだ。それに、この話は虚構である。そう虚構なのだ。

その証拠に、D氏の手元には今でもちゃんとザウルスがある。カラザウルス。シャープの新製品である。

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Takekawa Daisuke